15
今夜が特別な夜なのだとしたら、もう少し風呂に時間を掛ければ良かった。
祝言を上げた事だって未だに夢のようだと思っていた彼女は正直そんな事など考えも及ばなくて、今更のようにその
事を思い出して、慌てる。
昔のように烏の行水、ではないにせよ、いつものようにとりたてて特別な事もせずに身体を洗って出てきてしまった。
初夜というのであればここは入念に身体を洗って、綺麗にしておくべきだったのではないだろうか?
そういえばとは一昨日ぶつけた腰のあたりに青痣が出来ていたのを思い出す。鬼の血が流れている彼女はすぐに/span>
傷跡など消えるけれど、一昨日の痣はきちんと消えただろうか?
いやいや、腰の痣だけじゃない。この間うっかり腐った板塀で切ってしまった腕の傷はどうだろう?
足の豆は?水仕事で荒れた指先は?
誰に見られるわけもないと思っていたから無頓着にしすぎていたが、もう少し気遣えば良かった‥‥と今更のように
は思う。
せめて、今夜の為にだけでも磨き上げておくべきだったと。
いや、それ以前に。
普通、こういう時の女は『初めて』ではないのだろうか?
何も知らぬ、汚れない生娘ではないのだろうか?
はざぁっと青ざめ、途端に恐ろしくなって、
「や、やっぱ、ちょっと待って!!」
振り回した手がまさか見事男の顔に炸裂するとは思わなくて、一瞬にして甘い空気は凍り付き、霧散した。
「おまえなぁ!」
「ごごご、ごめんなさいっ!!」
思わずという風に大きな声を上げればの口から出てくるのは色気のいの字もない謝罪の言葉だ。
一気に白ける空気に盛り上がっていただけに気恥ずかしさが募り、互いにその気恥ずかしさを誤魔化すみたいに大声
でまくし立てる。
「台無しじゃねえか!」
「わざとじゃないんです!!」
「って、こら、てめ、背中向けてんじゃねえよ!」
居たたまれないのか、背を向けて逃げようとする彼女に土方は慌てた。
この状況で背を向けられたら自分一人がなんだかこの白けた空気に取り残されたみたいで、辛い。
待てと肩を掴んだが彼女は聞かずに完全に背を向けて、顔を布団に押しつけてしまった。
「だって、恥ずかしいんだもん!」
「馬鹿野郎、居たたまれねえのはこっちだって同じなんだからな!」
「やだもう、消えてなくなりたいーっ!」
恥ずかしくて情けなくてついつい大声を上げあう二人の様子は、これから初夜を迎えるとは到底思えない。
色気の欠片もない賑やかなこのやりとりがなんだか懐かしいなと思えばその昔、屯所にいた時によくこんなやりとりを
していたと思い出す。
助勤をどやしつける鬼の副長。そのままだ。
それが自分たちには相応しい、とでも言うのだろうか?
自分たちには変わる資格などないというのか。
そんなの御免だ。
これから先も彼女を怒鳴り散らすだけの上役で居続けるなんて。そして彼女もただ自分に怒鳴られるだけの部下でい
られても困る。
「‥‥嫌なら、やめてやるからちゃんと言え。」
怒ったりしないし、呆れたりもしない。
黙って抱かれろと命じるつもりも毛頭無い。
彼らは副長とその助勤という関係ではないのだ。
対等な立場、夫婦になるのだ。
だから、嫌ならば嫌だと言えばいいし、それが決まりだからと無理強いをするつもりもない。
「いやとかじゃ、ないんです。」
そう言えばは僅かに迷うような間の後、おずおずと顔を上げてこちらを振り返った。
困ったように眉を寄せてはいるけれど、拒絶の色はそこにはない。困っているのは恐らく別の事なのだろう。
「色々‥‥考えてしまって‥‥」
迷いながら言葉を告げる彼女の手が、きゅうと甘えるように布団を握りしめる。
思わず布団に嫉妬してしまう自分は我ながら余裕がない。
そんな自分を笑い飛ばし、引き剥がして自分に縋らせたくなる欲求を拳を握りしめて抑えながらの答えを待つ。
もぞもぞと動くたびに髪の隙間から見える項がどれほどに美味そうだとしても、だ。
「色々って、なんだ?」
努めて優しく問い掛ければはまた少し迷って、口を開いた。
「わ、私、あんまり綺麗な身体‥‥してないから。」
そんな彼の心情になど気付ず、は恥じ入るようにそう零すのだから思わずくらりと目眩を起こしそうになる。
女の心情というのは時に分からない。
綺麗か綺麗ではないかそんな事に拘らないし、拘る必要がない。何故かと聞かれれば答えは「惚れた女だから」だ。
惚れた女を抱けるのであれば見た目の美醜など関係ない。例え醜悪なそれだとしても惚れた女ならば愛せるだろう
し、それ以前にの身体が醜いはずもないのだ。
何故決めつけるのかと聞かれれば淀みなく彼女が綺麗な女だからだと答えるだろう。
綺麗でないはずがない。
それに、
間違いなく、自分は彼女の身体で欲情する。
美醜とは関係ないではないかと言われるかも知れないが、それが男というものだ。
美しいという感想を述べながら、その美しさに欲を掻き立てられ、汚したくなるのが男という生き物。
しかしそれを女たる彼女に分かれというのは土台無理な話で、それ以前にこんな話をして彼女を困らせたくはない。
ただ、
「そいつは、見てみなきゃわかんねえだろ。」
それは確かだ。
彼女が綺麗ではないと言うそれは本当に醜いのか、それともこの世の何よりも美しいのか。
見た事がない土方には判断がつけられない、とこう言われては小さく呻く。
「見せる前からあれこれ考えても仕方ねえ。」
「そ、それは‥‥そうだけど。」
「ちゃんと見てやるから、こっと向いて見せてみろ。」
例え醜い傷があろうが、目を逸らさずに彼は見てくれるのだろう。
見て、きっと醜いなどとは言わない。
その醜ささえも包み込んで、受け入れてくれるに違いない。それは確かだ、でも、
「私、初めてじゃ‥‥ないの。」
その事実は受け入れてくれるだろうか?
自分以外の男に肌を許した事があると、足を開いた事があると、そう告げても彼は受け入れてくれるだろうか?
軽蔑されるか、落胆されるか。
は怖くて堪らなくて、ぎゅうっと布団に顔を埋めて震えた声で告白をした。
「知ってたよ。」
一生懸命紡いだ告白に返ってきたのはあっさりとした短い、優しい声だった。
聞いたわけでも見たわけでもない。
ただ、気付いてしまったのだ。
彼女の変化に。
彼女が、幼い少女から大人の女に変わってしまった変化に。
ただ年を重ねたからではない。男を知ったからこそ、生じた違いに気付いた。
具体的に何が変わったかと聞かれれば、恐らく纏う空気だろう。
のそれが、突然、女のそれになったのだ。
そしてそれと同時に、あの男も変わった。
同じ日を境に。
すぐに察しがついた。
二人が、男女の仲になったという事。
つまり、を女に変えたのはあの男なのだと言う事。
「軽蔑、しないんですか?」
振り返ったが不安げに問い掛けてくる。
土方は笑った。
「なんで、そんな事くらいで軽蔑なんざしなきゃならねえんだよ。おまえは悪い事をしたわけじゃねえだろ?」
「そうだけど‥‥私、好きじゃないのに、そう言う事。」
「誰にだって、一回くらいは馬鹿な事をしでかしたくなるもんだろ?」
ただの一度で大罪を犯したという顔をされては困る。
それでは何十回と馬鹿をやった自分などは何をしても贖う事が出来ぬ極悪人になってしまう。
誰だって一度は興味本位で異性と肌を合わせたいと思う事がある。人肌が恋しくなる事があるのだ。
それは間違いではないし、悪い事でもない。
「まあ、軽蔑はしねえが‥‥」
正直、と彼は本音を少し、落とす。
「いい気分はしねえな。」
「‥‥」
「俺が、おまえの初めてを奪ってやりたかったからな。」
正直に、悔しいとは思う
土方はそう内心を零した。
今更言った事でどうにもならないし、言えば彼女を苦しめる事も分かっていたが、
「俺がおまえの唯一の男になりたかった。」
願わくは、彼女を女に変えるのは自分でありたかった。
彼女が知っているのは自分だけでありたかったし、彼女を知っているのは自分だけが良かった。
の温もりを、感触を、他の男が知っているかと思うとその男を記憶が無くなるまで殴りつけてやりたい気分にも
なるが‥‥そんな事、今言っても仕方のない事だ。
「俺は最初の男にゃなれねえが、」
驚いたように目を見開いたままこちらを見つめる彼女に、絶対の自信を込めた瞳を向ける。
「最後の男にはなれんだろ?」
この先、死ぬまで、
彼女に触れる事が出来るのは自分だけ。
「そう、ですね。」
だろ?とおどけた様子で確かめられて、はくすりと笑う。
これから先が身体を許すのは彼にだけ‥‥それは絶対だ。他の誰にも触らせたりしないし、触って欲しくない。
昔は思わなかったけれど、もう、愛した人にしかあげたくない。
「それじゃあ、観念して‥‥こっちを向け。」
「え、あっ」
言いながら男の手が肩を掴んだ。
こちらへと振り返らせようとしているが、でも、とは未だ拭えない羞恥心に布団を掴む手を離せない。
「おまえの初めての男がどうだったか知らねえが、俺は惚れた女の事は全部知りたいんでね。」
「べ、別に、総司は――」
意地悪な眼差しと言葉に思わず反論を口にするが、ぎろりと怒りの色を露わにした紫紺に睨み付けられ、その唇を塞が
れた。
噛みつくという口付けにぎくりと身体を強張らせ言葉を飲み込めば共に舌が怯えるように縮こまる。
「ん、っ」
それを追いかけて彼の舌が滑り込んできて、腕を取るように舌を攫われて絡まされて吸い上げられて、頭の芯が痺れた。
じん、と一瞬思考が霞み、次の瞬間ぞろりと自分のではないそれでなで上げられて背筋が不自然に震える。
以前の口付けよりもずっと、深い。
舌を根っこから引っこ抜くみたいに深く絡め取られ、吸い上げられる。
途端、頭のてっぺんから爪先まで痺れが走り、酸欠になったみたいに頭の芯が痺れ、加えてどこで息継ぎをすればいいの
かも分からず、ふわぁとの意識は一瞬遠のきかけた。
苦しさに彼の肩にきつく爪を立てれば唇が少し、離れる。
いつの間にか、身体は彼と向かい合うような形を取らされていて、ぼやける視界で見上げれば男は眉間に深い皺を刻ん
でいた。
「こんな時に、他の男の名前なんぞ呼ぶんじゃねえよ。」
胸くそ悪いと告げるその瞳は、嫉妬で焼き切れてしまいそうだった。
激しい憎悪にさえ変わってしまいそうな執着心が自分なんかに向けられているのかと思うと‥‥は心が歓喜で震え
るのを感じる。
思わず、口元がだらしなく歪んでしまうほど。
「なんだ、余裕じゃねえか。」
「余裕じゃない‥‥けど」
「けど、なんだ?」
「土方さんが、妬いてくれるの‥‥嬉しい。」
男の悋気などみっともない真似を誰がするものかと胸の内では思うものの、少し照れたように、でも嬉しそうに彼女
に言われてしまうと反論も出来ず、胸がきゅうと切なくなる。
愛おしくて堪らなくて、そうなっているのが自分だけなのだと思うと悔しくて、土方はもう一度唇に噛みついてそれ
以上には言わせないようにする。
「おまえも、俺に溺れちまえ。」
「もう、溺れてる‥‥」
「まだまだ全然、だ。」
離れた男の唇がそう呟き、甘い女の唇を名残惜しげに舌先でなぞり、口の端から溢れた唾液を舐め取るようにしながら
顎までを辿り、首筋へと降りていく。
触れられるのがくすぐったいのか、軽く身を捩れば逸らした首の付け根が男の眼下に曝された。
傷一つない、白い肌。
そこは何度も男が傷を付け、血を与えてもらった場所だった。
鬼の血を引いていなければそこには薄く傷が遺っていた事だろう。今はない。傷が遺らなくて良かったと思う一方で
自分の痕が消えてしまった事が少し、惜しい。
「ひじかた‥‥んっ」
羅刹の吸血衝動はないものの、唇に触れる皮膚の下で確かに流れる血潮を未だに感じる。
皮膚を裂けばきっと甘やかな血が流れ落ち、喉を潤わせてくれるのだろう。
血なんてもう必要ないけれど細くしなやかな首筋はとても美味そうでべろりと舌で舐ってやればの身体がびくりと
震え、次の瞬間肌の下から滲みだした汗が乾きを心地よく満たしてくれる。
普通の汗はしょっぱく感じるのだろうが、彼女は甘い。
甘く、そして程良く男を酔わせてくれる。
理性が、ぼんやりと輪郭を失っていく。
「ちょ、そこっ」
くすぐったいわけではないが、ちゅ、ちゅ、と音を立ててそこに吸い付かれるのは恥ずかしい。そうするのが男女の
なんたらなのか分からないが、執拗に彼に肌を吸われていると思うと堪らない。
しかし肩を押し返しても止めてはくれず、逆に邪魔するなとばかりに歯を立てられ先程とは違う固い感触に背が撓る。
ちりっと背中を走ったのは痛みではない。何か、と聞かれるとにはまだ分からなかった。
ただ、じわとそれで更に汗が噴き出すのだけは分かった。
「悪い、痛かったか?」
痛がっていない事は、彼も分かっている。
だから、口元が歪んでいるのだ。
痛いのが好きだなんてなんだか自分がどうしようもなく淫らになってしまったみたいで、知らないとそっぽを向けば
背けた頬に宥めるような口付けが落ちてくる。
「拗ねんなよ。」
「‥‥」
「可愛すぎて我慢出来なくなるだろ。」
「っ!?」
衝撃的な囁きだ。
そんな台詞をこの男が言うのかと驚きに目を見張れば、意地の悪い笑みを向けられた。
「か、可愛いとか‥‥我慢できないとか‥‥そういうこと、」
「恥ずかしがるおまえが見たいからな。」
「あ、悪趣味!」
「惚れた女を苛めてやりてえと思うのは普通だろ?」
それは絶対普通じゃない。
反論の言葉はにやと、子供が悪戯するみたいに口元が悪戯っぽく歪むのを見て掻き消える。
ああそういう顔は新鮮だと見惚れていれば、しゅるりと音を立てて帯を解かれ、慌ててそれを追いかけた。
が、衣を掴むよりも先に男の手に囚われて布団に押しつけられ、その弾みではらりと衣が布団の上に落ちてしまう。
彼女の身体を覆ってくれるものはなにもなく、ただ、男の身体だけで隠れている状態だ。
すーすーと隙間から入り込む夜の風が無遠慮にの肌を撫でていく。
「いいか、隠すなよ。」
顔の横に両手を押しつけ、男は子供に言い聞かせるみたいに言った。
「いい子にしてたら、ちゃんとご褒美やるからな。」
ご褒美――その言葉が酷く卑猥に聞こえるのは状況のせいか、彼が言うからなのか。それとも‥‥彼がそういうつもり
で言っているからなのか。
別にいやらしい事を望んでいるわけではないけれど、だからといって言いつけを守らなければそれ以上に卑猥な仕置き
が待っていそうでその手を下ろす事が出来ない。
ただ彼の眼下に曝されるという羞恥心に目をぎゅうっと瞑って顔を背ければ、一つ、小さく息を飲むのが聞こえた。
彼女が恥ずかしいから見せたくないと言っていたそれは、
息を飲むほどに美しかった。
白磁のような透き通る肌には傷など一つもない。
そこに痕を刻む事が無粋だと思わせるほど美しい肌で覆われた身体は、自分のものとは違って酷く柔らかそうである。
だが無駄に肉がついているのではなく腰などは引き締まっていて、そこから腿までの稜線が堪らなく美しく、堪らなく
色っぽい。
残念な事に腿をぴったりと閉ざされているせいで彼女の奥まった場所は見えないが、そこは後ほど堪能させて貰う事に
する。
それよりも今は彼女の乳房に興味があった。
女の胸の形がどうというのは知らないが、知識のない男が見ても彼女の胸は綺麗な形をしている。
だらしなく肉が流れてしまうという事もなく形をきちんと保っていて、瑞々しく張りがありそれでいてとても柔らか
そうだ。
長年サラシで押し潰されていたとは思えないし、よくそれで女だとばれなかったなと今更のように驚いてしまう。
まじまじと見つめる内に緊張のせいなのか、柔らかな乳房の先端が緩やかに立ち上がっていくのが分かった。
徐々に固くなる様を見るのは卑猥で、思わず男の股間のそれも同じように勃ちあがる。
「あんまり、見ない、で‥‥」
無言で見つめられるのは堪らない。
「悪い。あんまり綺麗だもんで、見惚れちまった。」
だからといって褒められるのも恥ずかしい。
の肌はぱぁっと朱で染まり、それが更に彼女の肌を卑猥に彩った。
どれほど綺麗だと言ってもまだ恥ずかしいのだろう。羞恥に顔は逸らされたままで、身体もいささか強張っている。
「み、見ないでってば。」
「分かった。じゃあ、見ねえ‥‥」
けど、
「触れて堪能する事にする。」
落ちてきた囁きと共に大きな男の手が乳房に触れる。
「っ」
触れてきたその感触と熱に息を飲めば、身体には自然と力が入った。
が、乳房は変わらず柔らかい。
女とはこれほどに柔らかいものだっただろうか?久しく触れていなかった感触に驚きつつ、ただ触れていただけの手で
一度形を覚えるように優しく包み、次には少し指に力を入れてみる。
「ンっ」
人の身体とは思えぬ程、柔らかなそれはいとも簡単に指を飲み込むように沈んだ。
だが、触れられ慣れていないせいかすぐに指に返ってくる芯にはまだ硬さが残っていた。彼女も久しい証拠。
それを確かめると力を緩め、今度は指を滑らせて下から掬い上げるようにその膨らみを押し上げながら下乳をふにふに
と指先で解すように揉んでやった。
「っ、やっ」
指先を動かしながらほっそりとした鎖骨を、舌でなぞる。
浮き出た骨の形をなぞるように肩口までを舐め、腕の付け根に口付けを落とせばびくりとの身体が跳ねた。
支えた乳房がその衝撃でふるりと震え、手のひらに吸い付くようにたぷんと戻ってくるのが‥‥楽しい。
どうやら腕の付け根が感じるらしかった。
「ここ、好きみてえだな。」
「ち、違っ、ぁ」
否定はちろちろと擽るように弱い部分を舐められて吐息に変わる。
そこを舐られるとむずむずと背骨の辺りが疼いて仕方が無くて、無意識に腰を布団に擦りつけるようにくねらせてし
まう。
「好きなんだろ、ここ、こんなに尖らせてるくらいなんだからよ。」
「ひゃぅっ!?」
ここと男の指がぴんと勃ち上がった赤い尖りを摘む。
その瞬間電流が背中を走ったような衝撃が駆け上がり、の唇から堪らずという風に甲高い声が迸る。
驚いたから出たのではないというのは声に微かに混じる甘い響きで察する事が出来た。
ただ、まだ驚きの方が強い。いや、それ以前に羞恥の方が強いだろうか。
思わず上がってしまった情けない声にが唇を噛みしめてしまう前に籠絡せねばならない。
「っ、や、いたっ‥ぁ!」
きゅむと両手で左右同時に強すぎるくらいに摘み、緩めると同時に先端を擦るように指の腹を動かす。強弱をつけて
角度を変えて、彼女が感じるやり方を探る。
暫くもしない内に、
「ぁ、あっ、あっ」
彼女の口とは対照的に素直で従順な身体が、それが好いと教えてくれた。
強く擦られるのも好い反応を見せてくれるが爪で軽く引っ掻かれるのが好き、らしい。
敏感な先端に爪を立てると身体がびくびくと大袈裟なくらいに震え、唇から声が迸る。
何度か指で擦り爪を引っかければ刺激で乳首が尖り鮮やかさが増してきた。それはまるで果実のようで。
「や、そこ、ひっかかな‥‥ふあぁっ!」
舐めてみたら、果実ほどは甘くない。
が、途端に上がる彼女の声はこの世の何よりも甘美で、思考がとろけてしまう。
どことなく泣きそうな頼りなげに震える語尾が堪らなく男の加虐心をそそってくれるし、快楽に甘く上擦る吐息には
情欲を、だけど抗おうと噛みしめた唇から途切れ途切れに落ちる息遣いに征服欲を掻き立てられる。
もっと突き落として、色々な彼女の声を、表情を、感覚を、欲を、暴いて、自分の色で塗り潰して壊してやりたい。
「あ、やっ‥‥はぁっ!」
そんな凶暴な欲に煽られるままに強く、じゅうと乳首を吸い上げながら反対のそれを抓る。
の背が美しく弧を描き、熱い吐息の塊がこぼれ落ちた。
とさりと再び布団に背が落ちる音を聞きながら次にはくすぐるように緩く舌先で突きながら、反対の手で乳房をこねく
り回す。
右と左と交互に口で、指で、歯で、爪で、優しく、強く、愛撫していけば徐々に固い芯が解れてゆくと多少強く握って
も痛がらないようになり、肌がしっとりと濡れて離れがたいと言う風に男の手のひらに吸い付いてきた。
それを今一度たぷりと揺らして目で遊ぶと、ふいに息を飲むような音が聞こえて一切の声が聞こえなくなる。
ちらりと視線を上げれば彼女は自分の手を口元に当てて必死に声を押し殺そうとしていた。
声を上げるのが恥ずかしいのだ。どことなく、媚びるような甘い響きが特に、嫌だ。喉を掻ききりたくなる。
「んっ」
押し当てるだけでは声は止まらず、は己の手の甲に噛みつき痛みを与えてそれを別のものへと変えてしまおうと
する。
歯を押し当てた瞬間、手の甲には彼女の整った歯の痕がくっきりと刻まれた。
痕を刻んでやりたい‥‥と思ったがそれは自分の痕だ、彼女がつけて良いものではないし、何より彼女を痛めつけるの
は許せない。それが例え彼女自身であっても。
「、手を‥‥」
退けろと低く命じるが、はふるふると頭を振って言う事を利かない。
強引にはね除けてやっても良いが除けた所でまた手を噛むのだろうし、だからといって強引に彼女を縛り付けたくは
ない。なんせ、初夜だ。彼女と初めての夜が無理強いというのはあんまりだ。
ならば、と土方はその唇を滑らせ細腰を撫でながら緩やかに顔を下ろしていく。
声を押し殺すのに必死になっているは気付かないようで、これは好機とすっきりとした臍の窪みに舌を差し込みな
がら両の手で膝までをゆったりと撫で下ろし、膝裏を引っ掻くように触れながらゆっくりと左右の脚を持ち上げる。
「んっ‥ふぇっ‥‥あっ!」
熱いそこにすうと風が入ってくる感覚にははっと我に返ればその時には既に男の身体が脚の間に入っていて、
「や、やだっ!!」
慌てて膝を閉じようとしたがその間には彼の身体があって出来ず、なおかつ男の強い力で膝をぐいと割り開かされ、
あられもない恰好を取らされてしまった。
「やだやだ、見ないで見ないでっ!」
「‥‥っ‥‥」
目眩を起こしそうな光景に土方は息を飲んだ。
彼女が必死に隠してきた身体の中心。彼女の身体の中で一番熱いであろうそこは既にしっとりと濡れ、色づいていた。
息づく、というのが正しいのだろうか。
ひくりひくりと緩やかに息づくように、彼女の蜜口は蠢いている。
それはまるで口だ。
涎を垂れ流しながら、食い物を寄越せとせがむ口のよう。
物欲しげにひくりと震えるたびに赤い肉を晒すのは誘っているのだろう。
そのくせに怯えたように時折口を噤む様が、酷く卑猥で、あざとく感じる。
「やだ、そんなとこ、やだ‥‥」
見ないでという声が震えてくぐもっていた。見られている自分の姿を見たくないのか、は自分の手で自分の顔を覆
っていた。
飴色の髪から覗く耳まで真っ赤で‥‥「やだ」と言うたびにひくりと聞こえる嗚咽が、男の嗜虐心に火をつける。
「や、ぁあっ!?」
ぬるりと秘裂をぬめった感触がなぞった。
思わずぎくりと強張る身体と一緒に、きゅうっと膣口が収縮するのが怯えているようにも見えて口の端に笑みが浮かぶ。
存外、自分は残酷な性があるのかもしれないと思いつつ、溢れた蜜を塗りたくるように指を往復させる。
くちゅくちゅとその度に聞こえる卑猥な音には恥辱のあまりに爪を噛んだ。自分が粗相をしてしまったようで恥ず
かしいと思うのに、濡れた音は指が滑るに連れて大きくなっていく。
そうしてべたべたに入口を濡らし、指に存分に蜜を絡めたのを確かめると緩やかに入口に指を押し当ててみた。
「んっ、ふっ」
たった一本の指だとしても、異物感を挿入されているという違和感があるもの。
慣れない身体はそれを異物として締めつけ、排斥しようと押し返してきた。
思った以上に、狭い。
が、感じていないわけではなかったらしく中は濡れていて、指を入れるのには支障がなさそうである。
生娘ではないし濡れているとはいっても久しければ痛いはず。ただでさえこれから痛い目を見せるのだ。
せめてしっかりと解してやらなければと小刻みに指を揺らしながら慎重にの中へと指を埋めていく。
奥まで一度押し込み、一度ずるりと引き抜くとの唇からほっとしたような安堵の声が上がった。緩んだ隙を見て
すかさず揃えた二本で再び中に潜り込んだ。
「いっ」
二本は流石に痛いのか、の顔が歪んだ。
締め付けは更にきつくなり、食いちぎられそうである。
「少し、我慢してくれよ。」
悪いなと言う言葉に返事はない。
今はとにかく痛みと違和感をやりすごすのに精一杯なのだ。
「待ってろ、今‥‥」
彼女を苦しめたくはない。
土方は彼女の中を傷つけぬように押し込んだ指をそろそろと動かしながら、蠢く内壁の一画。恥骨の裏にあたるだろう
ざらりとした壁に指の腹を優しく押し当てて、すりすりと擦り上げてやった。
「あっ、ぁあっ!?」
途端、の身体がびくんっと陸に揚げられた魚のように大きく跳ね、一度きゅうっときつく締まった膣が一瞬にして
どろりと溶け落ちてしまったように柔らかくなる。
先程まで拒んでいた内壁はざわざわと蠢きながら程良い強さできゅうきゅうと締めつけてきた。
肉が互いに擦れあいながら熱を生むのか、じわじわと上がってくる熱に指の方が溶かされてしまいそうである。
「あっ、あ‥‥そこ、やだ、ぁあっ」
ずりずりと彼の指が恥骨の裏を撫でる度に何かが身体の奥から溢れ出しそうで、未だ慣れない身体はそれをどう逃がせ
ばいいのか分からずただぎゅうと縋るように敷布を握りしめた。
「んっ、や、だめっ‥‥やだっ」
際に追いつめられているのにまだ逃げようと足掻くのか、の爪先が力無く敷布を掻く。
逃がさないと指を強く押しつけ、それまで一度として触れなかった核に指を押し当ててぐりっと擦り上げた、瞬間、
「ぁあっ――」
終の声と言わんばかりの悲鳴が喉を劈き、の視界は一瞬白で塗り潰されて、落下した。
落下した先は熱く湿った布団。
脱力して背中をつければ大量にかいていた汗が敷布に吸い込まれていくのが分かる。
今一体何が起きたのか分からない。世界がぶつ切りにされ、前後が繋がらなかった。
荒い呼吸をただ落ち着かせようと呼吸を繰り返していると少しずつ戻ってくる聴覚がぱさりと音を拾い上げる。
衣が落ちた音だった。
「平気か?」
そうして、ぼやけて未だ頼りない視界に土方が映り込む。
愛おしい人を見つけて思わず、の口元が笑みに歪んだ。
求めるようにだるい手を持ち上げるとその手を取られ、優しく指に唇を押し当てられる。
「辛い、だろうが、まだまだ休ませてやれねえんだ。」
悪いな、という彼は何故だろう、着物を着ていない。
逞しい胸板に思わずという風にぼうっと見惚れてしまったのは、彼の身体があまりに美しいせいだろう。
永倉ほどにやりすぎるというのは正直萎えてしまうけれど、彼のようにさりげなく、かつ無駄のない身体というのは
非常に均整が取れていて美しい。
男なのにどこか色香を放っている気がして、なんだか見てはいけないものを見てしまったような後ろめたさに僅かに/span>
視線が伏せられた。「っ」
「っ」
そこで、の目がぎょっと開かれる。
彼の下肢を目の当たりにしたのだ。
信じられない、という顔をしてまじまじと見つめたかと思うとすぐにはっと我に返り、慌てたように左右に視線が泳
いで逸らされる。
「なんだ?どうしたってんだ?」
「あああああ、あのっ‥‥」
可哀想なくらいに動揺してしまっている彼女は、若干涙目になっていた。
「ななな、なんか、あの、その‥‥」
そんな彼女がおかしくて、思わず喉が震えるのを堪えながらどうした?と更に問い掛ければ、ふにゃと眉が下がった。
「お、おお、お‥‥」
「お?」
は何度か「お」という言葉を連呼し、落ち着けるように一度息を飲み込んで、
「お、大きいんです、けど。」
それがまたあまりに情けない顔で言うものだからもう我慢が出来なくて噴きだしてしまった。
こんな状況で笑い出しては台無しだろう‥‥そう思うけれど止まらない。
「ひ、酷い!笑うなんて!」
理由は分からないが自分が嗤われているのだけは分かるらしい。が非難めいた声を上げたが、なかなか笑いが収ま
まってくれそうにない。
「だって、おまえ、すげえ情けねぇ顔‥‥」
声を上げて爆笑こそはしなかったが、肩を震わせてひぃひぃと言いながら言葉を紡げば「笑わないでください」と声が
返ってきた。
閨で彼の逸物を大きいと言った女は今までいたかもしれないが、それは興奮するあまりに出た言葉だっただろう。卑猥
な言葉を口にする事で興奮を高めようとするのだろうか‥‥まあ、大きいと言われて悪い気はしない。小さいと言われ
るよりも。
ただ、誰かと比べての発言だとすると些か複雑な思いだ。がそういうつもりだったのかは分からないが。
「ひどい‥‥」
笑われて傷ついたのか、は拗ねたように唇を尖らせてふいとそっぽ向いてしまう。
「悪かったよ。」
拗ねた顔も可愛いけれど、このまま機嫌を損ねたままというのもまずい。
謝罪の言葉を告げながら頬にちゅと口付けを落とせばつり上がった眦が下がった。
頬から徐々に中心に向かって唇を滑らせていくと唇を吸って欲しかったのか、の方から顔がこちらに向けられる。
優しく触れれば、小さく息を飲んだ後にその双眸が静かに閉ざされた。
舌先を潜り込ませれば今度はおずおずと彼女の方から触れてきて、絡め取ってやると鼻から抜ける声に再び艶が乗る。
「んっ、ふっ」
「っは、ん‥‥」
互いに求め合うように絡め合い、悪戯するように噛みつき合う。
更に何かを求めるのか、縋るように回された手が妖しげに頭皮を撫でる。それがどうにも愛撫されている気分になって
腰の辺りがずんと重たくなるのを男は感じ、唇を離した。
「」
呼べば緩やかに開かれる琥珀はすっかり濡れて、物欲しげに自分を見ている。
ぞっとするほど艶めかしい眼差しで、濡れた唇を己の舌で舐る様が酷くあざとい‥‥が、そそられた。
むくりとこれ以上勃ちあがるはずのない逸物が頭を擡げ、腹に着かんばかりに反り返り、早く寄越せと駆り立てる。
「少し、我慢できるか?」
出来ればもう少しだけ慣らしてやりたかったのだが、もはや限界である。
脚を抱え上げ左右に大きく開かれれば流石に恥ずかしくて身体を捩ろうとしたが、それを力で押さえつけながら見せつ
けるように身体を折り曲げさせて彼女の恥ずかしい場所に己を宛う。
「んっ‥‥」
触れさせただけで柔らかな肉がやわやわと吸い付いてきて腰の辺りがぞわりと震える。情けないかなそれだけで射精し
てしまいそうで土方は下唇を噛みしめた。
そうして下腹に力を入れて一つ息を吐くと、ちろりとの顔を見ながら宣告する。
「挿れるぞ。」
「‥‥は、はいっ」
言葉に改めてされると、この男の物にされる‥‥そう改めて思い知る事が出来た。
それが怖いのか、嬉しいのか、は震えてしまうのを悟られまいと目を閉じて、彼に身体を預けるのだった。

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