「悪い、近藤さん。
暫く、病欠ってことにしておいてくれ。」
携帯に出た近藤は驚いたようになんだって?とその言葉に声を上げたが、
「理由は‥‥後で話す。」
と真剣な声で悪いともう一度言うと、彼は黙って、すぐに、
『分かった。
こちらは俺に任せてくれ。』
と言ってくれた。
何も聞かずとも察してくれる彼に、有り難いと思いつつ、申し訳ないとも思い、短く礼を言って通話を終えた。
それをポケットにねじ込みながら車に乗り込むと、後部座席の扉が開いて当然のように沖田が滑り込んできた。
「‥‥まさか連れてけとか言うんじゃねえだろうな?」
振り返りもせずに訊ねればそのまさかですよと沖田は口を開く。
「土方さんだけに任せておけないし。」
「‥‥んだと?」
ぎろっと睨み付ければ彼は真っ直ぐに土方を見て、迷わず口にする。
「は、僕の悪友です。」
「‥‥‥‥‥」
そこで親友、と言わないあたりが彼らしい所だ。
でもきっと彼はこう言いたいんだろう。
は『自分の親友』だと。
唯一無二の親友だと。
だから、
「僕だって、を助けたい。」
「‥‥‥」
じっと見つめる瞳の奥には微かな怒りと後悔の色を滲ませていた。
こんな事になったのは、あの時、自分が止めなかったせいだと思っているのだろう。
自分が止めていればこんな事にならなかっただろうと。
そんな事をしようがすまいが、彼女は、選んだだろうけれど。
「‥‥ったく、仕方ねえな。」
土方は溜息と共に言葉を吐き出すと、シートベルトをかちりと締めて、エンジンを掛けた。
「時間はねえから、すぐに用意しろよ。」
家に寄ってやるからと言外に言う彼に、沖田はこくりと頷いた。
そのまま車を走らせようとして、
がちゃ、
「私も行きます!!」
緩やかに動き出した車のドアが開く。
慌ててブレーキを踏んだ。
振り返ると飛び込んできたのは千鶴だった。
彼女は小さな鞄を片手に車に乗り込むと、ばたんと扉を閉めて、追い出される前にベルトをした。しがみつくようにそれ
に掴まる。
「何考えてんだ、千鶴。
おまえは明日学校‥‥」
「君、病み上がりでしょ?
無理なんてさせられ‥‥」
二人が真剣な面持ちで彼女を窘めようとした瞬間、
「さんは私の大事な家族です!」
二人よりも強い口調でぴしゃりと千鶴は言い放った。
それこそ、思わずその勢いに彼らが飲まれるほどの迫力があって、
「‥‥お願いします。」
千鶴は声を荒げたせいで乱れた呼吸を整えながら怖いくらいに真剣な面持ちで頼み込んだ。
「私にも、何かさせてください。」
お願いしますと頭を深々と下げる彼女に、土方と沖田は複雑な顔で互いを見遣った。
やがて、
「‥‥わかったよ。」
土方の深い溜息と、
「分かったから。」
沖田の苦笑が零れる。
「っ」
その瞬間、千鶴は嬉しそうに顔を綻ばせて面を上げる。
ただし、と二人は揃って口にした。
「無理は‥‥」
「しないこと。」
「はい!!」
――さて、囚われの姫君を助けに行こうか――

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