小野寺と一緒に学校を出るのを見た瞬間、嫌な予感がした。
  あいつがを狙っているのは知っていたからだ。
  やらしい顔してついていくそいつの顔を見た瞬間に「まずい」と思って、二人の後を追いかけた。
  ‥‥完全なストーカーだって事は分かってる。
  でも、心配だった。
  飲み屋に向かうはなんだからしくもなく危なっかしく感じたから。
  店に入って三時間くらいした頃だろうか、店ん中がざわつくのが聞こえた。
  そのざわついた声に、確かにそいつの声が聞こえた気がして、俺はいてもたってもいられずに飛び込んだ。

  光景を目にした瞬間、目の前が真っ赤に染まったのが分かった。
  そいつは怒りってやつで、俺の頭ん中から相手が教師だとか、そんな事が一瞬、すっとんだ。
  でも、それよりももっと俺のなんもかんもをすっ飛ばしたのは、

  「助けて、原田君っ!!」

  が、俺の名前を呼んだ事だった。
  求められている。
  そう、分かった瞬間、怒りが一瞬嬉しさに変わり、次の瞬間、更に小野寺に対する怒りが増した。

  「――このっ!!」

  怒りを孕んだ声を上げて、俺はぐいとそいつの襟首を掴む。
  そして驚いて振り返ったそいつの横っ面を、

  「っぐげっ!?」

  思いっきり殴った。

  小野寺は蛙が潰れたような声を上げて、どしゃとそのまま汚れた床に落ちる。
  そのまま動かなくなった。多分気を失ったんだろう。
  悪いな、手加減出来なくて。

  「‥‥はらだ‥‥く‥‥ん?」

  伸びた小野寺を侮蔑の眼差しで睨み付ける俺を、そいつは恐る恐るという風に呼ぶ。
  視線を向けると、驚いたように目を見開いて、は俺を見ていた。
  どうしてここに?と聞きたそうな顔は酒のせいで赤い。
  目元も色っぽく染まってて、瞳は熱で濡れていた。
  色っぽい癖に、表情がやけに無防備で、男ならそのギャップに絶対、落ちると思う。

  だからそんな顔してるから迫られるんだよと俺は内心で悔しげに吐きながら、手を伸ばした。

  「‥‥」

  伸ばされた手と、呼びかけに、の目が更に大きく開かれた。
  俺をじっと見つめるそこに、あの日見たような恐れの色は無かった。

  俺は、奪うのではなく、求めた。

  「来いっ!」

  伸ばした手を振りほどかれたら‥‥きっと俺は今度こそ立ち直れねえと思った。
  だから、

  「はいっ」

  伸びた小さな手がしっかりと重なったとき、泣きたくなるほど、嬉しかった。