すっと静かに襖を開いた。
瞬間目に飛び込んでくる‥‥
机帳さえ立てずに、褥に横たわる少女の姿。
その姿に僕は小さく笑みを零す。
ヒノエを咎めにきたはずなのに‥‥彼が神子姫のもとへと入っていくそれを確認した途端、僕は迷わず隣
の部屋に滑り込んでいた。
寝苦しいのか、掛けていた布を下へ追いやり、横向きに眠る彼女の恰好は、とても理性の保てるものでは
なかった。
白い単衣から覗く太股。
着物の袷は肩までずりおちて、その白い肌を見せている。
そして時折、
「‥‥んっ‥‥」
と呻く声。その声は‥‥鼻に抜ける少し甘えた声に似ていた。
次の瞬間、彼女の枕元に膝をついていた。
「‥‥ん‥‥」
いつもは一つに纏める髪を下ろすと、大人びた雰囲気を漂わせる。
そっとその頬に触れると彼女はくすぐったそうに笑った。
そうしてゴロンと仰向けに寝転がる。
完全に袷は乱れている。
肩口まで滑り落ちたそれは、胸の丁度頂を隠すようにしているだけだ。
「ふふ、僕を誘っているんですか?」
言って僕はその身体の上に覆い被さった。
きっと、その空気の動きと、そして僕の体温とを感じたんだろう。
「‥‥」
静かにさんが目を覚ました。
ぼーっと僕の顔を見上げている。
それから。
「何してやがる、このエロ法師。」
低い唸るような声で彼女は告げる。
そこには情緒もなにもないのだけれど、僕は微笑まずにはいられなかった。
半目でじろりと睨みあげながら、
「返答次第じゃ、今すぐテメェのもの使い物にならなくしてやるぜ。」
なんて女性にあるまじき言葉を吐いた。
裾を乱す彼女の脚の間に、僕は片方の脚を割り込ませている。
そのまま彼女が脚を上げれば、まあ間違いなく‥‥
僕はそれは困るなと小さく呟いた。
「今何時だと思ってんだよ。」
はあと彼女は疲れたように呟いた。
「折角寝付いたとこだったのに‥‥」
ふあっと小さく欠伸をして、彼女は恨めしそうに睨み付けてきた。
「すみません、君の顔が見たくなったんです。」
「嘘吐け。」
じゃあ、なんで人の上にかぶさってんだよ。
「君があまりに艶めかしい恰好をしているから。」
そっと、乱れた袷を指摘するように触れると、カッと頬が朱に染まる。
「誘いにのるな、大人だろうが。」
慌てて袷をただした。
「退け。重たい。」
グイと押しのけながら彼女は上体を起こした。
「つれない人ですね。」
「つれない人で結構‥‥」
ガタン。
「え?」
ふいに聞こえた物音。
隣からだった。
「何?」
とその瞬間、彼女の瞳が細められ、空気を緊張させる。
「望美さんの部屋ですね。」
「バカ、何呑気な事言ってンだ‥‥」
賊の類だったらどうすんだよ!?
と彼女は声を上げる。
「ああ、心配有りませんよ。」
「はあ?」
「ヒノエです。」
彼女は怪訝そうな顔をした。
「なんで、アイツが?」
「僕と同じでしょう。」
つまりは夜這い。
「‥‥」
さんは少し考えて‥‥
「余計悪い。」
そう告げて立上がった。
「あのタラシ野郎、望美にまで手を出すか!断固阻止する。」
パシンと彼女は自分の拳を手で打った。
「ああ、止めたほうがいいですよ。」
「なんで!?」
ガッと噛みつくように彼女は振り返った。
僕は敷布の上に座り込んだままふふと口元を歪めて笑う。
「耳を澄ませれば分かります。」
「は?」
カタン。
「あ‥‥ヒノエくん‥‥」
聞こえてきた望美さんの声。
まだ少し強ばったその声に、まだ十分でないと知る。
「‥‥‥」
さんは怪訝そうな顔をしながらその声に耳を傾けていた。
そっと立上がると壁際に立つ彼女の背後に近付く。
「望美。」
愛おしむように呼ぶヒノエの声。
そして‥‥
「ゃ、あ‥‥んっ!」
次に聞こえた声は、明らかに分かる‥‥望美さんの濡れた声。
弱い場所でも触れられたか。
あの幼げな姫君のどこからそんな艶やかなものが出るのだろうと驚くほどだ。
「〜〜っ!?」
その声に彼女は真っ赤に顔を染めた。
今の声がなんなのかすぐに分かったようだ。
「あ、ぁあん!」
「姫君‥‥声を抑えないと‥‥聞こえるよ。」
可笑しげに笑うヒノエの声が被さり、望美さんの声はやがて聞こえなくなった。
「そういうことです。」
そっと僕は背後から彼女を抱き締めた。
フワリと広がる甘い香りに彼女はビクッと体を竦ませて、振り返る。
「だから‥‥ね?」
「ね‥‥って‥‥な、なんだよ。」
真っ赤な顔で彼女は言う。
分かっているクセに。
と僕は笑った。
「弁慶‥‥」
口づけで、舌足らずになった彼女が僕を呼ぶ。
もう無理だと彼女は首を横に振る。
ただ笑って僕は再び、そこに口づけた。
ちゅく。
「ひゃぁ‥‥!」
上げ掛けた悲鳴を、両手で彼女は塞いだ。
その調子ですと笑って、僕は片脚を肩に担いでそこを何度も舐った。
空より舞い降りた美しい天女。
月夜に誘われて泉で身を清めるその様は息を飲むほど美しいと聞く。
それ故に、男は惑わされ‥‥天女をこの地に繋ぎ止めた。
誰にも奪わせないように‥‥
何度も何度もその身体を求めて。
哀れなのは、空に帰れなかった天女か。
それとも‥‥そこまで溺れた男か。
むせ返る濃密な甘い香り。
くしゃりと髪を絡める指は、拒絶をしたいのか強請りたいのか。
こちらを見下ろす緑の瞳は、潤んでいる。
荒い呼吸を繰り返すその唇が‥‥「もっと」と動いたようで僕はひたすらに求めた。
溺れた男か、天女か。
哀れなのは‥‥やはり、男だろうか。
罪を重ね続けた‥‥男の方。
僕と同じだ。
吸い付く肌に僕は何度となく痕をつける。
例え羽衣を手にしたとしても、天になど戻れないように‥‥僕の証をつけておく。
何度と無く達した彼女は背を反らせて壁に頭を擦りつける。
ガクガクと震える膝を優しく撫でると、さんの瞳から涙がこぼれ落ちた。
落ちたそれは、白い膨らみに落ちて流れる。
その一滴すら、愛おしい。
唇で拭い取ると、彼女は再び涙を零した。
「もう‥‥」
告げる甘い声が、僕の欲望を何度も煽った。
「や‥‥」
ぐいと脚を腕に抱えて入り口を広げると、彼女は苦しげに眉を寄せた。
片手を壁に縫いとめて僕は余裕のない笑みを零す。
「いや、やだってば!」
立ったままなんて。
と彼女は真っ赤になって暴れた。
瞬間、がたんと衝立を蹴りつけて音をたてた。
「暴れないでください‥‥隣に聞こえてしまいますよ?」
けれど、不安定な姿勢のせいで、彼女は逃れることも出来ず‥‥
濡れた指で己のそれを濡らして、入口に押し当てた。
「や、やだって‥‥」
困ったようにさんは告げる。
「大人しくしてください。」
でないと。
「望美さんに聞こえてしまいますよ?」
言葉に彼女はカッと頬を染めた。
いや、彼女だけじゃない。
ヒノエもいる。
さきほどから音が静かになっているけれど‥‥確かにいるはずだ。
「お願い、やめ‥‥」
「しー、静かに。」
そろりと、入口を己で押し広げる。
「っひっ!」
慌てて彼女は残った手で自分の口を覆った。
それでも、漏れる悲鳴を唇をかみ締めることで堪える。
立ったままの挿入は初めてだった。
汗で滑りそうになる腿をしっかり押さえて、更に腰を進める。
「ゃ‥‥痛いっ!」
小さな悲鳴。
カタンッと、今度は弱々しく音を立てる。
「痛っ‥‥い!」
ぎゅうと目を瞑った瞬間、ぽろりとこぼれ落ちる涙。
いつもよりきつい締付けに目眩さえする。
「、力を抜いて。」
「痛い痛いっ!お願い、やめて!」
「そんなに声をあげたら聞こえて‥‥」
「ひあ‥‥っ!」
ふいに隣から聞こえた声。
僕はふと手を止めて耳を峙てた。
僕は口元に笑みを浮かべた。
煽られたな。
僕は青いなと笑う。
いや、先に煽られたのはこちらかもしれない。
「さん、聞こえますか?」
「え?」
はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら彼女は僕を見つめた。
カタン。
「‥‥だめ‥‥」
弱々しい彼女の声。
「望美、もう‥‥」
次に聞こえてきた、苦しげなヒノエの声。
「やあっ!駄目、駄目っ!!」
上がった悲鳴は、耳を峙てなくても聞こえる。
甘く上がる嬌声に、さんは顔を真っ赤に染めた。
「あ‥‥あ‥‥」
「彼女も君と一緒ですね。」
あんなに可愛らしい声を上げて。
「いやぁ、聞こえちゃう!声‥‥ヒノエくん!」
僕たちの声に煽られたか、彼らの行為は激しさを増していく。
「望美、いいよ‥‥もっと‥‥感じて。」
ヒノエの甘い声。
「い、や‥‥ああっ、壊れちゃう!」
「壊れて‥‥みせてよ。オレの前で‥‥」
「ヒノエっく‥‥」
ガタン!
「全く、神職につきながら何をしているんだか。」
「ほ、法師であるおまえが言うな!」
「これは、遠慮する必要はないみたいですね。」
「え?え?」
グイと僕は腰を引いた。
「あ、駄目っ!!」
「僕たちも、聞かせてあげましょう?」
そして次には強引に腰を進める。
「ひゃうっ!!」
ビクリと背を逸らして彼女は悲鳴を上げた。
「ふふ、今のはイイ声ですよ。」
きっと隣にもよく聞こえているでしょう。
「ん、あ、あっ!」
ずんずんと僕は律動を繰り返した。
強く腰を押しつけるようにすると、上げる悲鳴は更に甘く変わる。
「だめぇ‥‥弁‥‥あ、い、っちゃう!!」
じゅくり。
と溢れた蜜が伝い落ち、互いのそこを濡らし、その感覚に僕はぶるりと震える。
隣の声も更に激しさを増した。
「いい‥‥ですよっ‥‥」
絡めた指が僕の手の甲に爪を立てる。
彼女の内臓まで突き上げんばかりの欲望は、締付けに悲鳴を上げている。
「や、おねがっ‥‥抜いてっ!いや、いやぁっ!!」
掠れた声が響く。
「ほら、もっと声を聞かせてあげて。」
「いやぁっ!」
はあと僕は首筋に顔を埋めた。
壁を隔てた向こうも‥‥終焉が近い。
僕たちも‥‥そう。
「、声を‥‥」
聞かせて。
呟きに、彼女は涙混じりに声を吐き出した。
「大っ‥‥嫌い‥‥!」
僕はふと笑い、彼女の唇を思い切りむさぼった。
そんな言葉を吐く口ならいらないでしょう。
嘘ばかり並べる口など‥‥
「僕が欲しいのは、君の本当の言葉です。」
「‥‥アイシテル。」
「僕もです。」
苦しげに僕たちは言葉を交わした。
声を聞かせて。
君の声を。
誰よりも素直な気持ちで‥‥
50000踏んで下さった亜璃亜様へ
リクエスト、40000hitの隣部屋です!
いいんですか!?これで!!?
すみません、こんなこと弁慶さんはやってたみたいです。
てか、「痛い」って台詞でもう‥‥ナニをしてるかお分かりかと。
すみません。ものすごく艶話になってしまいました!
こういうのを期待していなかった方、とても申し訳ないです。
ということで、こんな形になりました。
気に入っていただければ幸いです。
50000hitありがとうございました!
2005.7.14 蛍。